秋の季節を告げる青い花・リンドウ。漢字で“竜胆”と書く理由、歴史や魅力を紹介します

秋の花といえば、キク、ダリア、ケイトウ、コスモスなどが挙げられますが、リンドウも秋に欠かせない花の一つ。野山では、少し涼しくなってきた9月頃が見頃のリンドウですが、最近はたくさんの品種が開発されています。切り花では6月頃から11月頃まで楽しめる夏〜秋の花として流通しています。

今回は、数少ない青系の花で、日持ちもよく重宝される「リンドウ」の歴史や魅力をご紹介します。

1983年生まれ。港区立青南小学校、慶應義塾中等部、慶應義塾高等学校、慶應義塾大学経済学部経済学科卒業。幼少期より「花屋の息子」として花への愛情と知識を育む。2006年〜2014年まで戦略コンサルティングファーム A.T. カーニーに在籍。2014年、青山花茂本店に入社し、2019年より現職 (青山花茂本店 五代目)。

秋を代表する花として親しまれてきたリンドウ

秋を代表する花、リンドウ(竜胆・龍胆)。山麓に可憐に咲く高山植物としてのイメージをお持ちの方もいらっしゃるかと思います。古くはいけばなで秋の野山を表現する花として、昭和に入り量産が始まってからは秋のお彼岸などの仏花で使用される花として、親しまれてきました。

現在では、出荷期間も伸び、青や紫だけでなく白やピンクなどの色も育種され、アレンジメントや花束でも使いやすい夏から秋の切り花として、生花店に並んでいます。

淡い紫のリンドウ

生薬としても知られています

リンドウは、漢字では「竜胆」や「龍胆」と書かれ、「りゅうたん」という呼び名が訛ってリンドウになったとされます。根の部分の薬効成分も知られ、胃腸薬などとして使われていたそうです。龍の胆(胆のう)という名称は、同じく生薬として知られる熊胆(熊の胆のう)と同等もしくはそれ以上の苦味があることから、名付けられたという説があります。

花材としてのリンドウの歴史

大正時代、花材としてのリンドウは短かった?

今では、長く伸びた一つの茎にたくさんの花をつけるリンドウがポピュラーですが、これら栽培種は、エゾリンドウを祖先に持つものが多いそうです。栽培種が出てくる昭和初期までに「花材」として流通が見られたものは、主に野山で足元に咲く、小さくて可憐な野生種のリンドウだったと推定されます。

野生種の青いリンドウ
野山に咲く野生種のリンドウ(長野県下諏訪町にて撮影)

古いいけばなの教本で登場するリンドウが、作品のメインとなる枝や花の足元にちょこっと顔を覗かせる姿ばかりであることも、野山に咲く背の低いリンドウを想起させます。

リンドウやワレモコウ、女郎花のいけばな
短いリンドウを足元に配置している、伝統的な秋のいけばな

「浅間山が札の山に見えた」

長く茎を伸ばし、たくさんの花をつけるリンドウの栽培種。その栽培種開発の一端となるエピソードが、弊社の歴史をまとめた書籍「花に命あり ー花茂三代ー 」(昭和47年刊行)の中に登場します。青山花茂本店の2代目の北野豊太郎(とよたろう)が、大正時代末期、リンドウの量産を始めた一節です。

当時、椿、りんどう、日蔭蔓(ひかげかずら)等の花は、全部関西から取り寄せていた。ところがある日、夜店の植木屋から、信州浅間山にりんどうがあることを聞いた。豊太郎は早速沓掛(くつかけ)から登って、鬼押し出しの茶屋で一休みした。豊太郎はあちこちと歩いているうちに、りんどうの林を見つけた。りんどうの林とは豊太郎の形容であるが、野放しのままに咲き続けたりんどうが、五尺以上の丈で見渡す限り続いていたという。豊太郎の夢にも思ったことのない光景であった。りんどうは高価な花であったが、それが今、目の前に無尽蔵にあるのだ。豊太郎の胸はおどった。浅間山が札の山に見えたと、豊太郎は当時を思い出しながら言う。〜中略〜 豊太郎は土地の人にも、このりんどうの価値を教え、土地の人は競って育成した。

浅間山が札の山に見えた、というあたりに代々続く商魂の強さを感じます。笑・・・

五尺≒150cmほどのリンドウの群生地を見つけたとあり(お曽祖父さん、五尺は言い過ぎじゃないかと個人的には思いますが・・・)、これが何の種類のリンドウだったかは今となってはわかりませんが、背が高くなる野生種の中で、リンドウ・オヤマリンドウ、もしくは湿地に咲くエゾリンドウのいずれかではないかと思います。

昭和初期から「長いリンドウ」の開発が進んだ

現在、青山花茂本店と長野県のリンドウ生産者さんの間に資本関係はなく、大正末期に北野豊太郎が長野県の生産者さんにお願いしたリンドウの育成が、今も続いているのか、現在の栽培種のルーツになっているのか、定かなことはわかりません。

ただ、「それまでは関西からリンドウを仕入れていた」との明記があることから、この昭和のはじめ頃から、中部・東北を中心にリンドウの栽培種開発が進んでいったのは間違いなさそうです。今では岩手県のリンドウが国内生産の半分以上を占め、秋田県、山形県、福島県、長野県などが続きます。

育種の努力を経て長く花付きのよくなったリンドウは、昭和時代半ばには、いけばなだけでなく仏花の素材としての利用価値が高まり、その需要を追い風に、生産が拡大していったと推定されます。

白いリンドウ

栽培種では、花が開かないリンドウが主流

「このリンドウは開花しますか?」とよくご質問を受けますが、切り花で流通しているリンドウの多くが、ほぼ開かずにその花を終えます。

というのも、流通している栽培種のリンドウのほとんどが、花がすぼまって咲く(ほぼ開かない)「エゾリンドウ」をルーツに持つリンドウだからです。逆に少し花が開くリンドウを、業界では「ササリンドウ系」や「ミヤマリンドウ系」と呼んでいます。

(こうした花業界内での呼称が、植物学的な分類とは異なっていることに注意が必要です。特に、植物学で分類される高山植物のミヤマリンドウは、栽培種のリンドウとは形状が大きく違い、ミヤマリンドウ系と呼ばれている栽培種に、高山植物のミヤマリンドウのルーツはないと推測されます)

エゾリンドウとササリンドウ
左側:エゾリンドウ系、右側:ササリンドウ系

秋になると、「花が開くリンドウ」に出会える機会が増えます

6月のリンドウの出始めは、ほとんどがエゾリンドウ系ですが、9月になると、花が少し開いて咲くササリンドウ系の出荷が始まります。ササリンドウ系の方が、少し日持ちは良いとされています。花が開くリンドウが好きな方は、秋になってからのリンドウをお楽しみください。

青いリンドウの花
花が少し開いて咲く、ササリンドウ系のリンドウ

数少ない「青い花」として

少し話は変わりますが、「ブルー系の花束を」「男性宛なので青を入れたアレンジメントで」と、青い色を指定いただくことがよくあります。そんな時、実はフラワーデザイナーは頭を悩ませることが多いのです。

というのも、青い花のニーズ自体が少ないこともあって、青山花茂でも、仕入れの中に占めるブルー系の花の割合は1%にも及びません。それでも、夏から秋の季節は、青色や青紫、青+白の複色のリンドウの入荷があるので、その意味でもリンドウが果たす役割は大きいと言えます。

ブルーの花といえば桔梗(キキョウ)もあります。アジサイ、デルフィニュームなど、夏はブルーの花の入荷が多い季節かもしれません。たまにリンドウとキキョウの違いを尋ねられますが、こう見ると一目瞭然ですね!

青色の花々
青山花茂店頭のブルーの花々。左上から時計回りに、リンドウ、アジサイ、デルフィニューム、キキョウ

秋の花贈りに、リンドウを使ったフラワーギフトを

秋代表する青い花として名高いリンドウも、育種の努力を経て、紫、ピンク、白など、多様な色の品種が流通しています。

切り花としてのリンドウは主役になる花ではありませんが、その色彩の多様さと日持ちが良さから、夏〜秋の季節を彩る名脇役として、私たちも重宝しています。

リンドウを使った秋のアレンジメントや花束をご覧ください。

紫のリンドウやピンクのバラのアレンジメント
秋のアレンジメント<フィエルテ>

※こちらのアレンジメントのお取扱い期間:9月上旬から10月下旬まで

紫のリンドウやピンクのカラーを使った花束
秋の花束<セゾン>

※こちらの花束のお取扱い期間:9月上旬から10月下旬まで

リンドウを飾って秋の風情を楽しみましょう

リンドウの魅力や歴史、ご興味を持っていただけましたでしょうか。秋の野山を思わせる風情に魅せられ、大正末期以降、品種改良が進んだことがわかります。現在では切り花だけでなく、園芸植物としても、流通の多い花材ですね。
切り花としては日持ちもよく、花付きも良い花材なので、お花のお手入れに慣れてない方も扱いやすい花材です。生花店で数本だけ購入して花瓶に挿しても、手軽に秋の風情を楽しむことができ、おすすめですよ。

この記事を書いた人

青山花茂本店代表取締役社長北野雅史

株式会社青山花茂本店 代表取締役社長

北野雅史

1983年生まれ。港区立青南小学校、慶應義塾中等部、慶應義塾高等学校、慶應義塾大学経済学部経済学科卒業。幼少期より「花屋の息子」として花への愛情と知識を育む。2006年〜2014年まで戦略コンサルティングファーム A.T. カーニーに在籍。2014年、青山花茂本店に入社し、2019年より現職 (青山花茂本店 五代目)。
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